
製造業の競争力強化において、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の射出成形技術は重要な役割を果たしています。高性能・高機能な部品製造を実現する一方で、汎用プラスチックとは異なる成形条件の最適化や品質管理が求められます。
本記事では、エンジニアリングプラスチックの射出成形における基礎知識から、成形時の重要なポイント、現場で直面しやすい課題とその解決策まで解説します。
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製造業において、金属部品と樹脂部品を一体化させる技術は、製品の高機能化・軽量化・コスト削減に不可欠です。その中でも「インサート成形」は、射出成形技術を応用した効率的な一体成形法として、自動車部品や電子機器部品など幅広い分野で採用されています。
本記事では、インサート成形の基本概念から射出成形との違い、メリット・デメリットまで詳しく解説します。
インサート成形とは
インサート成形の定義
インサート成形とは、射出成形プロセスにおいて、あらかじめ用意された金属や他の樹脂などの異素材部品(インサート部品)を金型内に配置し、その周囲に溶融した樹脂を射出・充填することで、インサート部品と樹脂を一体化させる成形技術です。
インサート成形が求められる背景
現代の製品開発において、インサート成形が強く求められる背景には、主に以下の要因が挙げられます。
まず、製品の高機能化・多機能化への要求が挙げられます。スマートフォンや自動車部品、医療機器など、多くの製品が小型化・軽量化されながらも、より高度な機能や性能を求められています。単一素材では実現が難しい電気的特性、機械的強度、熱伝導性などを、異素材の組み合わせによって効率的に実現できるインサート成形は、この要求に応える有力な手段となります。
次に、組立工程の削減とコストダウンです。従来、複数の部品を個別に製造し、後工程でネジ止めや接着、溶着などによって組み立てていた工程を、インサート成形によって一度に一体成形することで、部品点数の削減、組立工数の大幅な短縮、それに伴う人件費や管理コストの低減が可能となります。
さらに、製品の品質と信頼性の向上も重要な背景です。異素材を一体化することで、部品間のガタつきや緩みをなくし、製品全体の強度や耐久性、耐衝撃性を高めることができます。また、特定の用途においては、防水性や気密性の確保、電気的な接続の安定化など、より高い信頼性が求められる場面でインサート成形が有効です。
射出成形とインサート成形の違い
射出成形の基本工程
射出成形は、プラスチック製品を製造する上で最も一般的な方法の一つです。その基本工程は、まず樹脂ペレットをホッパーから供給し、加熱筒内でスクリューによって溶融・混練します。
次に、溶融した樹脂を閉じられた金型キャビティ内に高圧で射出充填します。金型内で樹脂が冷却され固化するのを待った後、金型が開き、成形品が取り出されます。この一連の工程を繰り返すことで、同一形状の製品を効率的に大量生産することが可能です。主に、単一素材の樹脂部品を製造する際に用いられます。
インサート成形の基本工程と特徴
インサート成形は、射出成形の一種ですが、あらかじめ金型内に金属部品や他の樹脂部品、電子部品などの異種材料(インサート部品)を配置し、その周囲に溶融樹脂を射出して一体化させる成形方法です。基本的な射出工程は通常の射出成形と同様ですが、以下の特徴があります。
まず、金型を開いた状態でインサート部品を所定の位置に正確にセットします。この際、インサート部品が射出圧力でずれないよう、金型側でしっかりと固定する機構が不可欠です。
インサート部品のセット後、金型を閉じ、溶融樹脂を射出します。樹脂がインサート部品の周囲に充填され、冷却・固化することで、インサート部品と樹脂が強固に一体化した複合部品が完成します。この技術により、複数の部品を後工程で組み立てる手間を省き、製造工程の簡素化や製品の高性能化に貢献します。
射出成形とインサート成形の使い分け
射出成形とインサート成形は、それぞれ異なる特性を持つため、製品の機能要件や生産性、コストなどを考慮して適切に使い分けることが重要です。
一般的な射出成形は、単一の樹脂材料から成る部品を大量に、かつ低コストで生産する場合に最適です。例えば、家電製品の筐体、容器、自動車の内装部品など、主に樹脂の特性を活かしたシンプルな形状の製品に適しています。
一方、インサート成形は、樹脂と金属、あるいは異なる種類の樹脂など、複数の材料を一体化させることで、高い機能性や強度、信頼性が求められる製品に多く採用されます。具体的には、電気接点を持つコネクタ、ねじ止め用の金属インサートが埋め込まれた部品、ギアや軸受けが一体化された機構部品などが挙げられます。
組立工程の削減、製品の小型化・軽量化、防水性・気密性の確保が重要な場合にも、インサート成形が優れた選択肢となります。初期投資は高くなる傾向がありますが、トータルコストや製品性能を考慮すると、多くのケースでそのメリットが上回ります。
インサート成形の種類と工法
手動インサート成形
手動インサート成形は、作業員が一つずつインサート部品を金型に手作業でセットし、成形を行う工法です。この方法は、特に多品種少量生産や試作段階、あるいはインサート部品の形状が複雑で自動化が困難な場合に適しています。
手動でのセットアップは、初期投資が比較的少なく済むというメリットがありますが、生産性が作業員の熟練度や作業速度に依存するため、大量生産には不向きです。また、人為的なミスによる品質のばらつきが発生するリスクも考慮する必要があります。
自動インサート成形
自動インサート成形は、ロボットや専用の自動供給装置を用いてインサート部品を金型に自動でセットし、成形を行う工法です。この方法は、大量生産を目的とする場合に非常に有効で、高い生産性と安定した品質を実現します。
自動化により、人件費の削減や生産リードタイムの短縮が期待できます。また、常に一定の動作で部品がセットされるため、人為的なミスが排除され、製品の品質が安定します。しかし、自動化設備の導入には高額な初期投資が必要となり、インサート部品の形状やサイズによっては専用の供給装置の設計が必要となる場合があります。
インサート成形のメリット
①組立工程の削減とコストダウン
インサート成形は、複数の部品を一体成形することで、後工程での組立作業を大幅に削減できます。例えば、金属端子やネジ受けを樹脂部品に直接埋め込むことで、部品点数の削減はもちろん、ねじ締めや圧入といった組立工程が不要になります。これにより、組立工数の削減、人件費の抑制、在庫管理の簡素化が実現し、製品全体の製造コストを低減することが可能です。
②製品強度と信頼性の向上
金属などの高強度なインサート部品を樹脂で包み込むことで、樹脂単体では得られない高い機械的強度や耐久性を製品に付与できます。特に、応力が集中しやすい部分や、ねじ締めによって破損しやすい部分に金属インサートを配置することで、製品の信頼性や長寿命化に大きく貢献します。異種材料が強固に結合するため、振動や衝撃に対する耐性も向上します。
③デザイン自由度の拡大
インサート成形は、異なる素材の特性を活かし、複雑な形状や機能を持つ製品を一体で成形することを可能にします。これにより、デザイナーは部品の組み合わせや配置における制約から解放され、より独創的で機能的なデザインを追求できます。金属の質感と樹脂の柔軟性、透明性などを融合させることで、意匠性の高い製品開発にもつながります。
④小型化・軽量化の実現
複数の部品を一体成形することで、部品点数を削減し、製品全体の小型化・軽量化に貢献します。特に、電子部品の分野では、導電性部品や端子を樹脂内部に直接埋め込むことで、配線スペースを節約し、高密度実装を実現します。これにより、スマートフォンやウェアラブルデバイスなど、小型・軽量が求められる製品の開発に不可欠な技術となっています。
⑤防水性・気密性の確保
インサート成形では、金属部品などを樹脂で完全に覆い隠すことで、部品間の隙間をなくし、優れた防水性や気密性を実現できます。これにより、水や粉塵、ガスなどの外部からの侵入を防ぎ、製品の信頼性や安全性を高めることができます。屋外で使用されるセンサー、医療機器、自動車部品など、高い環境耐性が求められる製品において、その効果を発揮します。
インサート成形のデメリットと注意点
①投資コストの高さ
インサート成形を導入する際の最大の課題の一つは、初期投資コストの高さです。特に自動化されたインサート成形システムを構築する場合、通常の射出成形と比較して高額な費用がかかる傾向にあります。
金型費用の増加
インサート成形用の金型は、インサート部品を正確に保持・固定するための機構や、樹脂の回り込みを防ぐための精密な設計・加工が求められるため、通常の金型よりも構造が複雑になります。これにより、金型設計費や製作費が増加します。
設備費用の増加
自動インサート成形の場合、インサート部品を金型に供給・セットするためのロボットアーム、パーツフィーダー、画像認識システムなどの自動化設備が必要となります。これらの設備は高精度であるほど高価になり、初期導入コストを押し上げる要因となります。
生産量との費用対効果
高額な初期投資を回収するためには、ある程度の生産量が見込める製品に適用することが重要です。小ロット生産や試作段階での導入は、費用対効果の面で慎重な検討が必要です。
②金型設計の複雑化
インサート成形における金型設計は、通常の射出成形金型よりも高度な技術と経験を要します。この複雑さが、開発期間の長期化やコスト増に繋がる可能性があります。
インサート部品の固定と位置決め
成形中にインサート部品がずれたり、破損したりしないよう、金型内で確実に固定し、正確な位置を保持する機構の設計が極めて重要です。この固定方法が金型構造を複雑にし、設計難易度を高めます。
樹脂の回り込み(バリ)対策
インサート部品と金型の合わせ面にわずかな隙間でもあると、そこに溶融樹脂が流れ込み、製品不良となるバリが発生します。これを防ぐためには、金型の高精度な加工と、インサート部品の形状や寸法精度を考慮した緻密な設計が不可欠です。
熱膨張と収縮の考慮
樹脂とインサート部品では熱膨張率が異なるため、成形時の高温状態から冷却される際に、両者の収縮差によって応力が発生し、製品の反りやクラック、インサート部品の破損に繋がる可能性があります。これらの影響を最小限に抑えるための設計ノウハウが求められます。
メンテナンス性の低下
複雑な構造の金型は、メンテナンスや部品交換の際に手間がかかり、ダウンタイムが増加する可能性があります。設計段階でメンテナンス性も考慮することが重要です。
インサート成形の金型設計のポイント
インサート部品の固定方法
インサート部品の固定は、成形中の位置ずれや破損を防ぎ、高品質な製品を得るために最も重要な要素の一つです。固定が不十分だと、樹脂の射出圧力によってインサートが移動したり、傾いたり、最悪の場合は金型を損傷する可能性もあります。
一般的な固定方法としては、金型側に設けたピンや突起、溝による機械的な位置決めが挙げられます。インサート部品の形状に合わせて、専用の治具を金型に組み込むこともあります。また、磁石や真空吸着、接着剤を利用する方法も、インサート部品の材質や形状によっては有効です。これらの固定方法は、インサート部品の熱膨張や収縮、抜き勾配、クリアランスなども考慮して設計する必要があります。
ゲート位置とランナー設計
ゲート位置とランナー設計は、樹脂の流動特性を決定し、充填不良、ウェルドライン、ヒケ、バリ、そりといった成形不良の発生に大きく影響します。インサート成形では、インサート部品が樹脂の流れを阻害する可能性があるため、より慎重な設計が求められます。
ゲートは、樹脂が金型キャビティに流れ込む入口であり、その位置と数は樹脂の充填バランスと圧力を左右します。インサート部品を避けて樹脂が均一に流れるように、ゲート位置を複数設ける、またはインサート部品から離れた位置に設定するなどの工夫が必要です。
ランナーは、溶融樹脂をゲートまで導く通路であり、その太さや長さ、形状は圧力損失や冷却時間に影響します。適切なゲート位置とランナー設計により、インサート部品への過度な応力集中を防ぎ、安定した品質の成形品を得ることが可能になります。
冷却システムの最適化
冷却システムの最適化は、成形サイクルタイムの短縮と製品の寸法精度、品質安定性の向上に不可欠です。インサート成形では、インサート部品自体が熱を吸収・放熱するため、通常の射出成形よりも複雑な冷却設計が求められることがあります。
金型内部に配置される冷却水路は、樹脂が充填されたキャビティ全体を均一に冷却できるように設計することが重要です。水路の配置、径、流量、そして冷却水の温度制御は、製品のそりやひずみを抑制し、安定した離型を可能にします。
特にインサート部品周辺は熱がこもりやすいため、インサート部品を直接冷却する、またはその周辺に集中的に冷却水路を配置するなどの工夫が必要になる場合があります。これにより、成形品の品質を確保しつつ、生産効率を最大限に高めることができます。
インサート成形の委託先選定のポイント
金型設計・加工技術力の見極め
インサート成形において、金型設計と加工技術は製品の品質を左右する極めて重要な要素です。委託先を選定する際は、まずインサート部品の固定方法、ゲート・ランナー設計、冷却システム、エジェクター機構など、複雑な金型設計への対応実績とノウハウを確認しましょう。
特に、異なる材質の組み合わせや微細な部品を扱う場合、高い技術力が求められます。最新のCAD/CAMシステムを導入しているか、多種多様な樹脂材料や金属インサート部品に関する知識が豊富かどうかも重要な判断基準となります。
生産管理体制と品質保証
安定した品質の製品を、定められた納期で供給できるかどうかも委託先選定の重要なポイントです。ISO9001などの品質マネジメントシステム認証の有無、製品の検査体制、不良発生時の対応フロー、トレーサビリティの確保状況などを確認しましょう。
試作段階から量産まで一貫した品質管理体制が構築されているか、不良品を未然に防ぐための予防処置が講じられているかなど、具体的な取り組みを評価することが大切です。
長期パートナーとしての信頼性
インサート成形品の開発から量産、そしてその後の改善提案まで、長期的な視点でのパートナーシップを築けるかどうかも見極めるべき点です。技術的な課題に対する提案力、円滑なコミュニケーション能力、秘密保持に対する意識の高さ、そして予期せぬトラブル発生時の迅速かつ的確な対応能力は、プロジェクトの成功に不可欠です。
試作から量産まで一貫して対応できる体制が整っているか、継続的なコストダウンや品質向上に向けた改善提案を積極的に行える企業を選定することで、より安定した製品供給と競争力強化に繋がります。
まとめ
インサート成形は、異なる素材を一体化させることで、製品の高性能化、小型化、コスト削減に大きく貢献する射出成形技術です。組立工程の削減や製品強度・信頼性の向上、デザイン自由度の拡大といった多大なメリットを享受できる一方で、初期投資や金型設計の複雑さという課題も存在します。
これらの課題を克服し、インサート成形を成功に導くためには、高度な金型設計・加工技術と、品質保証体制が整った信頼できるパートナーの選定が不可欠です。
私たちプロテックジャパンは、こうした高度な技術力が求められるインサート成形を得意としています。金属と樹脂を最適に組み合わせるための豊富なノウハウを基に、インサート部品の確実な固定や材質ごとの熱膨張差まで考慮した、緻密で高精度な金型を設計・製作いたします。
また、試作段階の小ロット生産から自動化による量産まで、お客様の事業フェーズに合わせた柔軟な生産体制を構築。自動車、通信機器、医療機器といった高い信頼性が求められる分野での実績も多数ございます。
インサート成形による製品の高機能化やコストダウンをご検討の際には、ぜひ一度プロテックジャパンにご相談ください。企画・設計の段階から、ものづくりのパートナーとして最適なソリューションをご提案いたします。
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