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エンジニアリングプラスチックの射出成形とは?成形のポイントや課題について解説

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エンジニアリングプラスチックの射出成形とは?成形のポイントや課題について解説

製造業の競争力強化において、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の射出成形技術は重要な役割を果たしています。高性能・高機能な部品製造を実現する一方で、汎用プラスチックとは異なる成形条件の最適化や品質管理が求められます。

本記事では、エンジニアリングプラスチックの射出成形における基礎知識から、成形時の重要なポイント、現場で直面しやすい課題とその解決策まで解説します。

関連記事:
射出成形とは?仕組みからメリット・デメリットまで初心者にもわかりやすく解説

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは

エンジニアリングプラスチックの定義と特徴

エンジニアリングプラスチック、通称エンプラとは、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などを持ち、構造材料や機能部品として利用される高性能なプラスチックの総称です。一般的な汎用プラスチックと比較して、より厳しい環境下での使用に耐えうる特性を備えています。

主な特徴は以下の通りです。

高い機械的強度と剛性

金属材料に近い強度や硬さを持ち、負荷がかかる部品にも使用可能です。

優れた耐熱性

高温環境下でも形状や性能を維持し、連続使用が可能な製品が多いです。

高い寸法安定性

温度や湿度変化による変形が少なく、精密な部品に適しています。

良好な耐薬品性

多くの化学物質に対して安定しており、腐食環境での使用も可能です。

軽量性

金属と比較して大幅に軽量であるため、製品の軽量化に貢献します。

電気絶縁性

優れた電気絶縁特性を持つ種類も多く、電気・電子部品に広く利用されます。

汎用プラスチックとエンジニアリングプラスチックの違い

プラスチックは大きく「汎用プラスチック」と「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」に分類されます。この二つの主な違いは、その性能と用途にあります。

汎用プラスチック

ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)などが代表的です。これらは比較的安価で加工しやすく、容器、包装材、日用品など大量生産される製品に広く使われます。しかし、耐熱性や機械的強度、耐久性といった面ではエンプラに劣ります。

エンジニアリングプラスチック

汎用プラスチックの弱点を克服し、より高い性能を持つのがエンプラです。具体的には、連続使用温度が100℃以上、引張強度が50MPa以上といった基準を満たすものが多く、自動車部品、電気・電子部品、精密機械部品など、より高い信頼性と耐久性が求められる分野で金属の代替材料としても活用されています。
 

射出成形の基礎知識

射出成形とは

射出成形は、プラスチック成形法の代表的な方法の一つです。加熱によって溶融させたプラスチック材料を、金型と呼ばれる精密な型の中に高圧で射出し、冷却して固化させることで目的の形状を持つ成形品を得ます。

この成形法は、複雑な形状の部品や、高い寸法精度が求められる製品を大量生産するのに非常に適しています。自動車部品、家電製品の筐体、医療機器、日用品など、私たちの身の回りにある多くのプラスチック製品が射出成形によって作られています。

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射出成形の主な工程

射出成形は、一般的に以下の主要な工程を経て行われます。

計量(可塑化)

まず、原料となるプラスチックペレットをホッパーから供給し、スクリューと呼ばれる回転する部品で加熱・混練しながら、溶融プラスチックを一定量(ショット量)貯めます。この工程でプラスチックは溶けて、射出可能な状態になります。

射出

計量された溶融プラスチックを、高圧で金型内部に高速で注入します。この際、金型はしっかりと閉じられ、プラスチックが漏れ出さないように保持されます。

保圧

金型内に溶融プラスチックが充填された後、冷却によるプラスチックの収縮を補うため、一定時間、圧力をかけ続けます。これにより、成形品のヒケ(へこみ)を防ぎ、寸法精度を向上させます。

冷却

金型内部で溶融プラスチックが固化するまで冷却を行います。金型には通常、冷却水が循環する流路が設けられており、効率的に成形品を冷やします。冷却時間は、材料の種類や成形品の厚みによって異なります。

型開き・突き出し

成形品が十分に固化したことを確認した後、金型を開き、エジェクタピンと呼ばれる機構によって、固化した成形品を金型から突き出して取り出します。これにより、一連の成形サイクルが完了し、次の成形が開始されます。
 

エンプラの射出成形における重要なポイント

材料の適切な管理と前処理

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)は、その高性能ゆえに材料特性を最大限に引き出すための厳格な管理と前処理が不可欠です。特に、吸湿性や熱安定性に対する配慮が成形品の品質を大きく左右します。

吸湿性への厳格な対応

多くのエンプラは吸湿性が高く、水分を含んだ状態で成形すると、加水分解による物性低下や、成形品表面のシルバーストリーク(銀条)といった外観不良の原因となります。そのため、成形前に適切な温度と時間で徹底した乾燥を行うことが極めて重要です。乾燥機や除湿乾燥機の選定、露点管理など、乾燥条件の厳密な設定が求められます。

熱安定性を考慮した乾燥条件

エンプラの中には、特定の温度を超えると熱分解を起こしやすいものもあります。乾燥温度が高すぎると材料が劣化し、成形品の機械的強度や耐熱性が損なわれる可能性があります。材料メーカーが推奨する乾燥条件を厳守し、過乾燥や熱履歴の蓄積を避けることが重要です。

金型設計の最適化

エンプラの特性を活かした高品質な成形品を得るためには、汎用プラスチック以上に金型設計の最適化が求められます。特に、流動性、冷却効率、ガス抜き、離型性などを総合的に考慮した設計が重要です。

流動性確保とガス抜き

エンプラは汎用プラスチックに比べて溶融粘度が高い傾向があるため、樹脂が金型内をスムーズに充填されるよう、ランナーやゲートの設計に工夫が必要です。また、成形時に発生するガスを効率的に排出するためのガスベント(ガス抜き溝)の設置は、ショートショットやガス焼けを防ぐ上で不可欠です。

均一な冷却回路設計

エンプラ、特に結晶性エンプラは、冷却速度が成形品の結晶化度や内部応力、ひいては寸法安定性や反りに大きく影響します。金型内に均一な冷却回路を配置し、成形品全体を均一に冷却することで、品質のばらつきを抑えることができます。
 

エンプラ射出成形でよくある課題と対策

ウェルドライン(融着線)の発生

ウェルドラインは、金型内で溶融した樹脂が合流する際に、完全に融着しきれずに線状の跡が残る現象です。特にエンジニアリングプラスチックは、汎用プラスチックに比べて溶融粘度が高く、冷却速度も速いため、ウェルドラインが発生しやすく、強度低下の原因にもなります。

対策

金型温度の最適化: 融着部での樹脂温度を保つため、金型温度を適切に調整します。特に結晶性エンプラでは、金型温度が低いと結晶化が促進され、ウェルドラインが目立ちやすくなります。
出速度と保圧の調整: 充填速度を上げることで、樹脂が合流する際の温度低下を抑え、融着性を高めます。また、適切な保圧をかけることで、ウェルドライン部の密度を高めることができます。
ゲート位置・数の変更: ウェルドラインが製品の強度や外観に影響を与えない位置にゲートを配置したり、複数ゲートで樹脂の合流点を分散させたりします。
ベント(ガス抜き)の設置: 樹脂の流動を妨げるガスを排出し、スムーズな合流を促します。
樹脂温度の調整: 樹脂温度を上げることで流動性を高め、融着性を改善できる場合がありますが、熱分解には注意が必要です。

ソリ・反りの問題

ソリや反りは、成形品の冷却収縮が不均一なために発生する変形現象です。エンジニアリングプラスチック、特に結晶性エンプラは収縮率が大きく、またガラス繊維などの強化材を配合している場合、繊維配向による異方性収縮が顕著になるため、ソリ・反りが起こりやすくなります。

対策

金型温度の均一化: 金型内の温度分布を均一に保つことで、冷却速度の差を減らし、不均一な収縮を抑制します。温調回路の最適化が重要です。
冷却時間の延長と保圧の最適化: 冷却時間を十分に確保し、樹脂が金型内で安定して固化するのを待ちます。また、適切な保圧をかけることで、収縮をコントロールし、残留応力を低減します。
製品設計の見直し: 肉厚の均一化を図り、急激な肉厚変化を避けることで、冷却収縮の差を小さくします。リブやボスなどの配置も考慮します。
ゲート位置の調整: 樹脂の充填バランスを考慮し、ソリが発生しにくいゲート位置を選定します。
アニール処理: 成形後に熱処理(アニール)を行うことで、成形品内部の残留応力を緩和し、ソリ・反りを軽減できる場合があります。

バリの発生と対策

バリは、金型の合わせ面や可動部の隙間から溶融樹脂がはみ出して固化する現象です。エンジニアリングプラスチックは高圧で射出されることが多く、また一部の低粘度材料では発生しやすくなります。バリは製品の外観を損ねるだけでなく、寸法精度や機能にも影響を与えます。

対策

型締め力の最適化: 成形圧力に対して十分な型締め力を確保することで、金型の開きを防止し、バリの発生を抑制します。
射出圧力・速度の調整: 必要以上に高い射出圧力や速度は、金型に過剰な負荷をかけ、バリの原因となることがあります。最適な成形条件を見つけます。
金型のメンテナンス: 金型の合わせ面(パーティングライン)の摩耗や破損、型締め精度の低下がないか定期的に点検し、必要に応じて修理・調整を行います。
金型温度の均一化: 金型温度が不均一だと、特定の箇所で樹脂の粘度が低下し、バリが発生しやすくなることがあります。
製品設計の見直し: 肉厚の急激な変化や複雑な形状は、金型に部分的な負荷をかけやすいため、設計段階でバリのリスクを考慮します。

ショートショット(充填不足)

ショートショットは、溶融樹脂が金型の隅々まで充填されずに固化し、成形品の一部が欠けてしまう現象です。エンジニアリングプラスチックは、粘度が高く流動性が低い材料があるため、特に発生しやすい課題です。

対策

射出量と射出速度の増加: 必要な量の樹脂を、十分な速度と圧力で金型内に充填します。
金型温度の最適化: 金型温度を上げることで、樹脂の流動性を高め、金型内での固化を遅らせることができます。
ベント(ガス抜き)の設置・改善: 金型内の空気が適切に排出されないと、樹脂の充填が妨げられます。ガス抜き溝の深さや位置を見直します。
ゲート・ランナーのサイズ拡大: ゲートやランナーが細すぎると、樹脂の流れ抵抗が大きくなり、充填不足の原因となります。適切なサイズに拡大を検討します。
樹脂温度の調整: 樹脂温度を上げることで流動性を高め、充填性を改善できる場合がありますが、熱分解には注意が必要です。
材料の乾燥: 材料に水分が含まれていると、成形時にガスが発生し、ショートショットの原因となることがあります。適切な乾燥を徹底します。

ガスベーキング(焼け)への対応

ガスベーキング(焼け)は、金型内の空気が圧縮され、その熱によって樹脂が酸化・分解し、成形品表面に黒い焦げ跡や変色が発生する現象です。エンジニアリングプラスチックは、熱分解温度が比較的低い材料もあるため、注意が必要です。

対策

ベント(ガス抜き)の設置・改善: 金型内の空気を効率的に排出できるベントを適切に設置し、メンテナンスを徹底します。特に樹脂の最終充填部に重点を置きます。
射出速度の調整: 射出速度が速すぎると、金型内の空気が急激に圧縮され、高温になりやすいため、速度を調整します。
金型温度の最適化: 金型温度が高すぎると、樹脂の熱分解を促進する場合があります。適切な温度管理を行います。
樹脂温度の調整: 樹脂温度が過度に高いと、熱分解が起こりやすくなります。最適な樹脂温度を設定します。
ゲート位置の変更: 樹脂の流れをスムーズにし、空気の巻き込みや滞留を避けるために、ゲート位置を見直すことがあります。
材料の乾燥: 材料に含まれる水分がガス化し、焼けの原因となることがあります。適切な乾燥条件を遵守します。
 

材料別の成形ポイント

ポリアミド(PA、ナイロン)

ポリアミドは吸水性が高いため、成形前に徹底した予備乾燥が必須です。乾燥が不十分な場合、加水分解による物性低下や外観不良(シルバー、気泡)が発生します。結晶性樹脂であるため、成形収縮率が比較的大きく、金型温度の管理が製品の寸法安定性に大きく影響します。また、ガラス繊維強化グレードでは、繊維配向による異方性収縮や金型摩耗への対策が必要です。

ポリカーボネート(PC)

ポリカーボネートは非晶性樹脂であり、高い吸湿性を持つため、成形前の十分な乾燥が不可欠です。乾燥不足は加水分解を引き起こし、強度低下や外観不良(シルバー、気泡)の原因となります。溶融粘度が高く流動性がやや劣るため、高い射出圧力と適切なシリンダー温度が求められます。残留応力が発生しやすく、これがクラックやソリの原因となるため、金型温度を適切に管理し、冷却速度を調整して残留応力を低減することが重要です。

ポリアセタール(POM)

ポリアセタールは結晶性樹脂で、比較的高い成形収縮率を持ちます。熱安定性に優れますが、高温で長時間滞留させるとホルムアルデヒドガスを発生する可能性があるため、シリンダー内での滞留時間を短く保つことが重要です。結晶化を促進し、寸法安定性を高めるためには、金型温度を比較的高い温度に設定することが推奨されます。離型性が良好なため、複雑な形状の成形にも適しています。

ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびポリエチレンテレフタレート(PET)

PBTとPETは結晶性ポリエステル樹脂であり、吸湿性が高いため、成形前の徹底した乾燥が必須です。特にPETは吸湿性が高く、乾燥が不十分だと加水分解による物性低下が顕著に現れます。流動性が良好で薄肉成形にも適していますが、高い結晶化度と良好な表面外観を得るためには、金型温度を比較的高めに設定する必要があります。成形収縮率が大きいため、高精度が求められる部品では金型設計や成形条件の最適化が不可欠です。

変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE/PPO)

変性ポリフェニレンエーテルは非晶性樹脂で、優れた耐熱性と寸法安定性が特徴です。吸湿性は比較的低いものの、安定した成形品質を確保するためには予備乾燥を行うことが推奨されます。溶融粘度が高く、流動性がやや劣る傾向があるため、適切な樹脂温度と射出圧力を設定することが重要です。金型温度は、製品の外観品質と残留応力の抑制のために適切に管理する必要があります。
 

まとめ

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の射出成形は、その優れた特性を最大限に引き出すため、汎用プラスチック以上に高度な技術と深い知見が求められます。材料の厳密な管理、特性を考慮した金型設計、そして「ソリ」や「ウェルドライン」といった特有の課題に対応する最適な成形条件の設定など、高品質な製品を実現するには、経験豊富な専門家との連携が不可欠です。

私たちプロテックジャパンは、こうした専門性の高いエンジニアリングプラスチックの成形を最も得意とする分野の一つです。コラムでご紹介した各種エンプラはもちろん、さらに高性能なスーパーエンジニアリングプラスチックまで、多種多様な材料に対応してきた豊富な実績がございます。

エンプラ特有の成形課題に対しても、長年培ってきたノウハウと高精度な金型設計・製作技術を駆使し、お客様の製品に求められる品質を実現します。また、金型の設計から成形、さらには塗装やメッキといった二次加工まで一貫して対応することで、開発から量産までをスムーズにサポートできる体制を整えております。

エンジニアリングプラスチックの成形で課題をお持ちの場合や、金属からの材質転換をご検討の際には、ぜひ一度プロテックジャパンにご相談ください。材料選定の段階から、ものづくりのパートナーとして最適なソリューションをご提案いたします。

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