
製造業の現場で広く活用されている「射出成形」。プラスチック製品の大量生産に欠かせない加工技術ですが、その仕組みや特徴を正確に理解されている方は意外と少ないかもしれません。
本記事では、射出成形の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、さらには他の成形方法との違いまで、初心者にもわかりやすく解説します。生産効率の向上やコスト最適化を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
射出成形とは
射出成形の定義
射出成形(しゃしゅつせいけい、英語:Injection Molding)とは、プラスチック製品を製造する代表的な成形方法の一つです。
熱で溶かしたプラスチック樹脂を金型内部に高圧で射出し、金型内で冷却・固化させることで、金型と同じ形状の製品を成形します。この技術は、特に熱可塑性樹脂の加工に広く用いられており、「インジェクション成形」とも呼ばれます。
複雑な形状の製品を高い精度で、かつ効率的に大量生産できる点が大きな特徴です。
射出成形が使われる製品例
射出成形は、私たちの身の回りにある非常に多くのプラスチック製品の製造に利用されています。その用途は多岐にわたり、生活のあらゆる場面でその恩恵を受けています。
家電製品
テレビやエアコンのリモコン、掃除機の本体、冷蔵庫の部品など
自動車部品
内装部品(ダッシュボード、ドアトリム)、外装部品(バンパーの一部)、ランプハウジングなど
日用品
プラスチック製の食器、バケツ、おもちゃ、文房具、ペットボトルのキャップなど
電子機器
スマートフォンやパソコンの筐体、コネクタ、ボタン類など
医療機器
注射器(シリンジ)、検査キット、点滴容器など
これらの製品は、射出成形によって精密かつ均一に製造され、私たちの生活の利便性や安全性を支えています。
射出成形の仕組み
射出成形の基本的な工程
射出成形は、主に以下の5つの工程を繰り返すことで、プラスチック製品を効率的に製造します。
可塑化・計量
まず、ホッパーから供給されたプラスチックのペレット(粒状の材料)を、加熱されたシリンダー内でスクリューによって溶融させ、ドロドロの状態(溶融樹脂)にします。同時に、次回の射出に必要な量の溶融樹脂をスクリューの前方に計量し蓄えます。
型締め・射出
溶融樹脂を金型に射出する前に、金型をしっかりと閉じ、高い力で固定(型締め)します。その後、ノズルから金型内部の空間(キャビティ)へ、高圧で溶融樹脂を一気に注入します。
保圧
金型に注入された溶融樹脂は、冷却される過程で体積が収縮します。この収縮を補い、製品の形状や寸法精度を保つために、一定時間、金型内に圧力をかけ続ける工程を保圧と呼びます。
冷却
金型内で溶融樹脂が完全に固まるまで冷却します。金型には冷却水が循環する通路があり、これにより効率的な冷却が行われます。冷却時間は、製品の肉厚や材料の種類によって異なります。
型開き・取り出し
製品が十分に固まったら、金型を開き、突き出しピンなどを使って成形品を金型から取り出します。これにより、一連の成形サイクルが完了し、次のサイクルへと移ります。
射出成形の種類
射出成形には、特定の目的や製品特性に応じて様々な種類があります。ここでは代表的なものをいくつか紹介します。
インサート成形
金属部品や他の樹脂部品などを金型内にあらかじめ配置し、その周囲に樹脂を射出することで、これらを一体化させる成形方法です。電気部品や自動車部品など、複数の素材を組み合わせた製品によく用いられます。
二色成形(多色成形)
異なる色や種類の樹脂を、1つの金型内で連続的または同時に射出することで、一体となった多色・多材質の製品を成形する方法です。デザイン性や機能性を高める目的で、家電製品のボタンや自動車の内装部品などに活用されます。
ガスアシスト成形
樹脂を金型に射出した後、金型内に不活性ガス(窒素など)を高圧で注入し、製品内部に中空部分を形成する成形方法です。これにより、肉厚の厚い製品でもヒケ(表面の凹み)やソリを防ぎ、軽量化や材料費の削減、成形時間の短縮が可能です。
発泡成形
樹脂に発泡剤を混ぜて金型に射出することで、製品内部に微細な気泡を発生させる成形方法です。これにより、軽量化、断熱性・遮音性の向上、クッション性の付与などが可能となり、自動車部品や建材、梱包材などに利用されます。
超精密成形
特に高い寸法精度や表面品質が求められる製品(例:光学レンズ、医療機器部品、コネクタなど)を成形する方法です。高精度な金型、厳密な温度・圧力管理、成形機の高い安定性が不可欠となります。
射出成形のメリット
①大量生産に適している
射出成形は、一度金型を製作すれば、同じ形状の製品を高速かつ連続的に生産できる点が最大のメリットです。
サイクルタイムが短く、短時間で大量の製品を供給できるため、自動車部品、家電製品、日用品など、市場で高い需要がある製品の製造に特に適しています。これにより、製品あたりのコストを大幅に削減し、高いコスト競争力を実現することが可能です。
②複雑な形状の製品が作れる
溶融した樹脂を金型に流し込むことで、非常に複雑な内部構造や、複数の部品を一体化した形状の製品も一度に成形できます。
これにより、部品点数を削減し、組み立て工程を不要にすることで、製造コストや工数を大幅に削減できます。アンダーカット、リブ、ボスといった複雑な形状も金型設計によって実現できるため、設計の自由度が高まります。
③高い寸法精度が実現できる
金型によって製品の形状が厳密に規定されるため、射出成形では非常に高い寸法精度と優れた再現性を実現できます。
これにより、精密な公差が求められる医療機器部品や電子部品など、品質の安定性が不可欠な製品の製造に強みを発揮します。安定した品質の製品を供給し続けることが可能です。
④後加工が少なく済む
金型で最終的な製品形状が一度に成形されるため、切削、研磨、穴あけなどの後加工がほとんど不要です。
製品を取り出した後に、ゲート部分のバリ取りや簡単な仕上げ作業を行うだけで済む場合が多く、加工にかかる時間やコスト、工数を大幅に削減できます。これにより、全体の製造工程を簡素化し、生産効率を高めることができます。
⑤材料のロスが少ない
射出成形は、必要な量の材料を正確に金型に射出するため、材料の無駄が少ない製造方法です。スプルやランナーといった、成形時に発生する余剰部分も、破砕して再利用(リサイクル)できる場合が多く、材料費の抑制に貢献します。
環境負荷の低減にもつながり、持続可能な製造プロセスとして評価されています。
⑥自動化による省人化が可能
射出成形機は、材料供給から製品の取り出し、さらには後処理までの一連の工程を自動化することが容易です。
また、ロボットを導入することで、24時間体制での無人運転や省人化を実現でき、人件費の削減に大きく貢献します。さらに、自動化によりヒューマンエラーが減少し、安定した品質と高い生産性を維持することが可能です。
射出成形のデメリット
①初期投資(金型費用)が高い
射出成形において、製品を成形するために必要となる金型は、その設計と製作に高額な費用がかかります。金型は製品の形状や精度に直結するため、非常に高い技術と精密な加工が求められます。
特に複雑な形状や高い耐久性が求められる製品の場合、金型費用はさらに高騰する傾向にあり、これが射出成形を導入する際の大きな初期投資となります。
②小ロット生産には不向き
金型製作にかかる高額な初期費用のため、生産量が少ない小ロット生産では、製品一つあたりの金型償却費が非常に高くなり、コスト競争力が低下します。
金型費用を効率的に回収するためには、ある程度の数量を継続的に生産する必要があるため、多品種少量生産や一時的な需要の製品には、射出成形は経済的に不向きな場合があります。
③設計変更が困難
一度製作された金型は、特定の製品形状に合わせて精密に作られています。そのため、製品の設計変更が発生した場合、金型の修正や再製作が必要となることが多く、これには追加の時間と費用が発生します。
わずかな変更であっても、金型の一部を加工し直したり、場合によっては金型全体を作り直したりする必要があるため、射出成形では設計段階での十分な検討と確定が非常に重要となります。
④製品サイズに制限がある
射出成形機には、成形できる製品の最大サイズや一度に射出できる樹脂の量に限界があります。大型の製品を成形するには、それに対応する大型の成形機と金型が必要となり、設備投資や金型費用がさらに高額になります。
また、金型の大きさや重量にも物理的な制限があるため、非常に大きな製品の製造には適していない場合があります。
射出成形を外注する際の選定ポイント
技術力・実績の確認
外注先の技術力は、製品の品質を左右する最も重要な要素です。特に、複雑な形状や高い寸法精度が求められる製品の場合、その業者がどのような技術を持っているかを確認する必要があります。
過去の製造実績や、対応可能な材料の種類、微細加工や精密成形といった特殊な技術への対応可否を確認しましょう。
また、ISO9001などの品質マネジメントシステム認証の有無も、技術力の信頼性を示す指標となります。
生産体制(小ロット対応・量産対応)
自社の生産計画に合わせた柔軟な生産体制を持つ業者を選ぶことが重要です。試作段階や多品種少量生産を希望する場合は、小ロット生産に特化した対応が可能かを確認します。
一方、大量生産を前提とする場合は、安定した品質で供給できる量産体制が整っているか、また、急な増産に対応できるキャパシティがあるかを確認する必要があります。生産規模に応じた適切な設備と人員が配置されているかを見極めましょう。
金型設計・製作の自社対応可否
射出成形において、金型は製品の品質とコストを決定づける重要な要素です。外注先が金型の設計から製作、メンテナンスまで一貫して自社で対応できる場合、設計変更やトラブル発生時の対応がスムーズになり、納期短縮やコスト削減につながる可能性があります。
金型を外部に委託している場合でも、その連携体制や実績を確認し、信頼できるパートナーと組んでいるかを確認しましょう。
品質管理体制
製品の品質を安定させるためには、徹底した品質管理体制が不可欠です。外注先がどのような品質基準を設け、どのような検査体制で製品の品質を保証しているかを確認しましょう。
具体的には、不良品発生時の対応フロー、トレーサビリティの確保、定期的な品質監査の実施状況などを確認することが重要です。品質管理に関する具体的なマニュアルや手順が明確にされているかどうかも、判断材料となります。
納期対応力
ビジネスにおいて納期厳守は非常に重要です。外注先が提示する納期が現実的であるか、また、急な納期変更や短納期対応が可能かを確認しましょう。
過去の実績や、生産計画の共有、進捗報告の頻度なども確認し、信頼できる納期管理体制が整っているかを評価します。
特に、複数の工程を要する製品の場合、各工程でのリードタイムを明確にし、全体として無理のないスケジュールが組まれているかを確認することが大切です。
まとめ
射出成形は、私たちの身の回りにある多くのプラスチック製品を生み出す、極めて汎用性の高い製造技術です。大量生産や複雑な形状、高い寸法精度が求められる製品においてその真価を発揮しますが、金型費用などの初期投資や小ロット生産には不向きという側面も持ち合わせています。
この技術の特性を深く理解し、製品の用途や生産量、コストなどを総合的に考慮した上で、最適な製造方法を選択することが、ものづくりにおける成功の鍵となります。特に、製造を外部に委託する際には、本記事で解説したようなポイントを踏まえ、信頼できるパートナーを慎重に見極めることが極めて重要です。
私たちプロテックジャパンは、長年培ってきた金型製作の技術とノウハウを基盤に、高精度な射出成形を得意としております。汎用樹脂から高い性能が求められるスーパーエンジニアプラスチックまで、幅広い材質に対応可能です。
また、射出成形の課題となりやすい試作品や小ロット生産のご要望にも、アルミ材を用いた簡易金型などで柔軟にお応えします。成形後の塗装、メッキ、印刷といった表面処理や、異なる素材を一体化させるインサート成形、2色成形まで一貫して対応できる生産体制も当社の強みです。
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