
金型製造において、コスト削減と生産効率の向上は経営層にとって重要な課題です。「入れ子」は、金型の一部を交換可能にすることで、これらの課題を解決する有効な手段として注目されています。
本記事では、金型の入れ子の基本概念から、導入によるメリット、適した材質の選定方法まで解説します。
金型の入れ子とは
入れ子構造の仕組み
金型の「入れ子(いれこ)」とは、金型本体の一部に、摩耗しやすい部分や、製品形状の変更が想定される部分を、着脱可能な部品として組み込む構造を指します。金型は通常、一つの塊として設計・製造されますが、入れ子構造を採用することで、特定の部位のみを交換・修理することが可能になります。
この構造は、金型全体の寿命を延ばし、メンテナンスコストや時間を大幅に削減するために広く用いられています。例えば、射出成形金型におけるゲート部や、ダイカスト金型における溶融金属が直接触れるキャビティの一部など、特に高い負荷がかかる箇所に導入されることが一般的です。
入れ子構造を使用するメリット
金型に入れ子構造を導入することは、製造業の経営層にとって多岐にわたるメリットをもたらします。
コスト削減
- 金型全体の作り直しが不要となり、摩耗や損傷した部分のみを交換・修理できるため、金型製作コストを大幅に削減できます。
- 特に高価な金型の場合、部分的な交換で済むため、初期投資のリスクを軽減できます。
生産性向上
- メンテナンスや修理にかかるダウンタイムが短縮されます。入れ子部品を事前に準備しておくことで、迅速な交換が可能です。
- 金型の稼働率が向上し、生産計画の安定化に貢献します。
設計変更への柔軟な対応
- 製品のマイナーチェンジやバリエーション展開の際、入れ子部分のみを設計変更・製作することで対応できます。
- 多品種少量生産や試作開発において、金型全体の変更よりも迅速かつ低コストで対応できます。
品質の維持・向上
- 摩耗しやすい部分を定期的に交換することで、製品の寸法精度や表面品質を長期間にわたって維持できます。
- 特定の部位に最適な材質や表面処理を選択できるため、製品不良率の低減にも繋がります。
納期短縮
- 金型全体の製作期間に比べ、入れ子部品の製作期間は短いため、急な製品変更や市場投入のスピードアップに貢献します。
入れ子構造を使用するデメリット
多くのメリットがある一方で、入れ子構造には考慮すべきデメリットも存在します。
初期設計の複雑化
- 入れ子の分割面、固定方法、位置決めなど、金型全体の設計が複雑になります。
- 設計段階での十分な検討と高度な設計技術が求められます。
精度管理の難しさ
- 入れ子と金型本体との合わせ面に隙間が生じると、バリの発生や製品精度低下の原因となります。
- 精密な加工と組み立て技術が不可欠です。
製造コストの増加(一部)
- 入れ子部品自体の加工コストや、入れ子を固定するための機構部品のコストが発生します。
- 長期的な視点で見ればコスト削減に繋がりますが、初期段階でのコストは高くなる可能性があります。
冷却効率への影響
- 入れ子と金型本体の間に熱抵抗が生じることで、熱伝導性が低下し、冷却効率に影響を与える可能性があります。
- 特に高温での成形を行う金型では、冷却水路の配置や材質選定でこの点を考慮する必要があります。
入れ子が使用される金型の種類
入れ子構造は、様々な種類の金型でその特性を活かして活用されています。
プラスチック射出成形金型での入れ子
プラスチック射出成形金型は、最も入れ子構造が多用される金型の一つです。特に以下のような部位で活用されます。
- ゲート部
- パーティングライン部
- 製品形状の一部
- エジェクタピン周り
プラスチック製品のライフサイクルが短くなり、多品種少量生産のニーズが高まる中で、射出成形金型における入れ子活用は、生産効率とコスト競争力を高める上で不可欠な技術となっています。
ダイカスト金型での入れ子
ダイカスト金型は、溶融金属を高圧で金型に射出するため、非常に過酷な環境に晒されます。そのため、耐熱性、耐摩耗性、耐ヒートクラック性に優れた入れ子構造が不可欠です。
- ゲート部・ランナー部
- キャビティの一部
- プランジャーチップ・スリーブ
ダイカスト金型における入れ子活用は、金型全体の寿命を大幅に延ばし、メンテナンスコストを削減する上で極めて重要です。当社では、創業100年を超える金属加工技術を活かし、高精度なダイカスト金型の入れ子設計・加工にも対応しています。当社のダイカスト技術については、以下のページもご参照ください。
プレス金型での入れ子
プレス金型においても、入れ子構造は摩耗しやすい部分や、交換頻度の高い部分に適用されます。
- 抜きパンチ・ダイ
- 曲げR部
- ガイドピン・ブッシュ
プレス金型では、特に高硬度で耐摩耗性に優れた材質が入れ子として選定されることが多く、超硬合金なども使用されます。
その他の金型での入れ子活用例
上記以外にも、様々な金型で入れ子構造は活用されています。
鍛造金型
高温・高圧下での金属成形を行うため、ダイカスト金型と同様に耐熱性、耐摩耗性に優れた入れ子が必須です。特に製品形状を決定するキャビティ部は、摩耗や変形が生じやすいため、入れ子として交換可能な設計が一般的です。
ゴム成形金型
ゴム材料の特性上、金型表面への付着や摩耗が発生することがあります。離型性や耐食性を考慮した材質の入れ子や、表面処理を施した入れ子が用いられます。
ガラス成形金型
高温での成形となるため、耐熱性、耐酸化性に優れた特殊な材質が入れ子として使用されます。
このように、入れ子構造は金型の種類を問わず、金型寿命の延長、メンテナンス性の向上、コスト削減、そして生産効率の向上に貢献する汎用性の高い技術です。
入れ子に適した材質の選び方
入れ子の性能は、その材質選定に大きく左右されます。適切な材質を選ぶことは、金型の寿命、製品の品質、そして生産コストに直結するため、非常に重要な経営判断となります。
材質選定の基本的な考え方
入れ子の材質を選定する際は、以下の要素を総合的に考慮する必要があります。
- 成形材料:どのような材料(プラスチック、金属、ゴムなど)を成形するか。ガラス繊維入りプラスチックは金型を摩耗させやすく、溶融金属は高温・高圧に耐える材質が必要です。
- 生産数量:小ロット生産か、大量生産かによって、初期コストとランニングコストのバランスが変わります。
- 製品精度・表面品質:求められる製品の精度や表面の美しさによって、金型の耐摩耗性や鏡面性が重要になります。
- 金型寿命:どの程度の期間、金型を使用したいか。長寿命を求める場合は、高硬度・高耐摩耗性の材質や表面処理が必要です。
- コスト:材質自体の価格、加工コスト、熱処理コストなどを考慮します。
- 加工性:複雑な形状の入れ子の場合、加工しやすい材質を選ぶことで、製造コストを抑えることができます。
- 耐熱性・靭性:高温下で使用される金型や、衝撃荷重がかかる金型では、これらの特性が重要です。
一般的な入れ子用鋼材の種類
金型入れ子によく使用される代表的な鋼材とその特徴を以下に示します。
SKD61(JIS規格 熱間工具鋼)
- 特徴:耐熱性、靭性、耐ヒートクラック性に優れる。高温下での強度が高く、焼入れ焼戻しにより硬度を調整可能。
- 用途:ダイカスト金型、熱間鍛造金型、ホットプレス金型、プラスチック金型のホットランナー部品など。
SKD11(JIS規格 冷間工具鋼)
- 特徴:高硬度、高耐摩耗性、加工性に優れる。焼入れ後の寸法安定性も良好。
- 用途:プレス金型(抜きパンチ・ダイ)、プラスチック金型(特にガラス繊維入り樹脂用)、粉末冶金金型など。
プリハードン鋼(例:HPM系、NAK系)
- 特徴:熱処理済みの状態で供給されるため、購入後すぐに加工できる。加工性が良く、鏡面仕上げも可能。
- 用途:プラスチック射出成形金型(特に中・小ロット、精密部品)、ダイカスト金型の型板など。
超硬合金
- 特徴:極めて高い硬度と耐摩耗性を持つ。耐熱性も高いが、靭性には劣る。
- 用途:プレス金型のパンチ・ダイ、高精度・長寿命が求められるプラスチック金型のゲート部やピン、粉末冶金金型など。
ステンレス鋼(例:SUS420J2)
- 特徴:耐食性に優れる。焼入れにより硬度を向上可能。
- 用途:医療品・食品関連のプラスチック金型、湿潤環境で使用される金型など。
成形材料による材質の使い分け
成形する材料の種類によって、入れ子に求められる特性が大きく異なります。
プラスチック成形
- 汎用樹脂(PP, PE, PSなど):プリハードン鋼(NAK55, HPM77など)やS50Cなどの汎用鋼材。
- エンジニアリングプラスチック(PA, POM, PBTなど):プリハードン鋼、SKD11、SKD61など。
- ガラス繊維入り樹脂:摩耗が激しいため、SKD11(高硬度熱処理)、超硬合金、または特殊表面処理を施した鋼材。
- 高機能樹脂(PEEK, PPSなど):耐熱性・耐食性も考慮し、SKD61、ステンレス鋼、特殊合金鋼など。
ダイカスト成形(アルミ、亜鉛、マグネシウムなど)
高温・高圧に耐えるSKD61(JIS規格)や、さらに高性能なダイカスト用熱間工具鋼(例:DAC55、DCMXなど)が必須。ヒートクラック対策が重要。
プレス成形(鋼板、非鉄金属など)
高耐摩耗性が求められるため、SKD11、SKH51(ハイス鋼)、超硬合金などが選定されます。
生産数量と材質選定の関係
生産数量は、入れ子の材質選定におけるコストと性能のバランスを決定する重要な要素です。
小ロット生産(数千個以下)
- 加工性の良いプリハードン鋼や汎用鋼材が適しています。初期コストを抑え、短納期での金型製作が可能です。
- 摩耗が少ないため、高価な高硬度材や特殊処理は不要な場合が多いです。
中量生産(数万~数十万個)
- SKD11やSKD61などの工具鋼が一般的です。必要に応じて熱処理を施し、硬度と耐摩耗性を向上させます。
- 部分的に特殊表面処理を検討することもあります。
大量生産(数百万個以上)
- 高硬度・高耐摩耗性を持つ工具鋼(SKD11, SKD61)を熱処理したものや、超硬合金が推奨されます。
- 金型寿命を最大限に延ばすため、特殊表面処理(PVD/CVDコーティング、窒化処理など)は必須となる場合が多いです。
- 初期コストは高くなりますが、長期的なランニングコスト(金型交換費用、ダウンタイム)を考慮すると、費用対効果は高くなります。
特殊表面処理による性能向上
金型入れ子の性能をさらに高めるために、様々な特殊表面処理が施されます。これにより、材質自体の特性を補完し、耐摩耗性、離型性、耐食性などを向上させることができます。
PVD/CVDコーティング(物理/化学気相成長法)
- TiN (窒化チタン):高硬度、耐摩耗性、耐食性。金色を呈する。
- TiCN (炭窒化チタン):TiNよりも硬度が高く、靭性も向上。
- CrN (窒化クロム):低摩擦係数、優れた離型性、耐食性。銀色。
- DLC (ダイヤモンドライクカーボン):極めて高い硬度と低摩擦係数、優れた離型性。
- 用途:プラスチック金型のゲート部・エジェクタピン、プレス金型のパンチ・ダイ、ダイカスト金型のピンなど。
窒化処理(ガス窒化、イオン窒化など)
- 鋼材表面に窒素を浸透させ、硬い窒化層を形成します。耐摩耗性、耐疲労性、耐食性が向上します。
- 用途:SKD61などの工具鋼に施され、ダイカスト金型やプラスチック金型の寿命延長に寄与します。
浸炭処理
- 鋼材表面に炭素を浸透させ、焼入れにより硬い層を形成します。高い硬度と靭性を両立できます。
- 用途:ギアやシャフトなど、表面硬度と内部靭性が求められる部品に適用されますが、金型入れ子にも使用されることがあります。
タフトライド処理(塩浴軟窒化処理)
- 鋼材表面に窒素と炭素を同時に浸透させることで、耐摩耗性、耐疲労性、耐食性を向上させます。
- 用途:プラスチック金型、プレス金型など。
これらの表面処理は、金型入れ子の性能を飛躍的に向上させ、結果として製品の品質安定化、金型寿命の延長、メンテナンスコストの削減に大きく貢献します。
まとめ
本記事では、金型の入れ子について、その基本概念から、製造業の経営層が注目すべきメリット・デメリット、適した材質の選定方法、そして設計上の重要なポイントまでを網羅的に解説しました。
入れ子設計においては、適切な分割箇所の選定、堅牢な固定方法、効率的な冷却・加熱機構、確実なガス抜き、そして高精度な合わせ面や位置決めなど、多岐にわたる専門知識と経験が求められます。
当社は、創業100年を超える金属・樹脂等の金型設計・加工技術力を有しており、長年にわたる知見と実績でお客様の金型製造をサポートしてまいりました。小ロットから量産まで、お客様のあらゆるニーズにお応えできる製造体制を整え、最適な入れ子活用のご提案から、設計、製造、メンテナンスまで一貫して対応いたします。金型のコスト削減や生産性向上にお悩みの方はぜひ一度、当社にご相談ください。
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