
板金加工は、薄い金属板を切断・曲げ・穴あけなどの加工を施して、様々な形状の製品や部品を製造する技術です。自動車部品から電子機器の筐体、建築資材まで、私たちの身の回りにある多くの製品に板金加工技術が活用されています。
本記事では、板金加工の基礎知識から具体的な加工方法、メリット・デメリット、さらには品質向上のポイントまでを解説いたします。
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板金加工とは?基本概念と定義
板金加工の定義と特徴
板金加工とは、金属の薄い板(板金)を素材として、切断、曲げ、穴あけ、溶接などの塑性加工を施し、目的の形状や機能を持つ製品を製造する技術の総称です。
この加工方法は、材料を削り取るのではなく、変形させることで成形するため、材料の無駄が少なく、軽量で複雑な形状の部品を効率的に製造できる点が大きな特徴です。
自動車部品、家電製品の筐体、建築資材、産業機械のカバーなど、私たちの身の回りにある多くの製品に板金加工が活用されています。
板金加工で使用される主な材料
板金加工では、用途に応じて様々な種類の金属材料が使用されます。主な材料としては、以下のものが挙げられます。
鋼板(鉄鋼)
一般的な構造材として広く用いられ、コストパフォーマンスに優れています。冷間圧延鋼板(SPCC)、電気亜鉛めっき鋼板(SECC)、溶融亜鉛めっき鋼板(SGCC)などがあり、加工性や表面処理のしやすさから多岐にわたる製品に利用されます。
ステンレス鋼板
耐食性、耐熱性、意匠性に優れ、厨房機器、医療機器、建築外装などに使用されます。SUS304(汎用性が高い)、SUS430(磁性があり安価)などが代表的です。
アルミニウム合金板
軽量で熱伝導率が高く、非磁性であることから、航空機部品、電子機器筐体、自動車部品などに利用されます。A5052(強度と耐食性のバランスが良い)、A1050(純アルミニウムに近く加工しやすい)などが一般的です。
銅板・真鍮板
優れた導電性と熱伝導性を持ち、美しい色合いから装飾品や電気部品に用いられます。加工性も良好です。
板金加工と他の金属加工技術との違い
金属を加工する技術は板金加工以外にも多岐にわたりますが、それぞれ得意とする分野や特性が異なります。板金加工が他の主要な金属加工技術とどのように異なるかを見てみましょう。
切削加工との違い
切削加工は、金属の塊から不要な部分を削り取って形状を作る除去加工です。高精度な加工が可能ですが、材料ロスが多く、製品が重くなりがちです。一方、板金加工は薄い金属板を変形させる塑性加工であり、材料ロスが少なく、軽量な製品を効率的に製造できます。
鋳造との違い
鋳造は、溶かした金属を型に流し込み、冷却して固める加工法です。複雑な内部構造や厚みのある製品の製造に適していますが、表面精度は板金加工に劣り、軽量化が難しい場合があります。板金加工は薄板を基盤とし、比較的軽量で表面品質の高い製品を量産するのに適しています。
鍛造との違い
鍛造は、金属を加熱または常温で叩いたりプレスしたりして、組織を緻密化しながら成形する加工法です。非常に強度が高く、耐久性のある製品を作れますが、板金加工のような複雑な曲げや穴あけ加工には不向きです。板金加工は薄板の複雑な曲げ加工や一体成形に強みがあります。
板金加工の主な種類と特徴
板金加工は、金属板を様々な方法で変形・分離・接合することで、目的の形状や機能を持つ部品を作り出す技術です。ここでは、主要な板金加工の種類とそれぞれの特徴について解説します。
切断加工(レーザー切断・プラズマ切断・せん断)
切断加工は、金属板を任意の形状に分離する工程です。用途や材料、板厚に応じて様々な方法が使い分けられます。
レーザー切断
高出力のレーザー光を照射し、その熱で金属板を溶融・蒸発させながら切断する方法です。非接触加工のため材料への負担が少なく、複雑な形状や微細な加工を高精度で行えるのが特徴です。薄板から中厚板まで幅広い材料に対応します。
プラズマ切断
高温のプラズマジェットを噴射し、金属板を溶融・吹き飛ばして切断する方法です。レーザー切断よりも厚い板の切断に適しており、比較的安価で高速な加工が可能です。主に中厚板から厚板の加工に用いられます。
せん断
上下に配置された刃(シャーリングブレード)で金属板を挟み込み、強い力で押し切ることで直線状に切断する方法です。加工速度が速く、コスト効率に優れるため、定尺板からのブランク(素材)切り出しや、直線的な切断を大量に行う場合に適しています。
曲げ加工(プレスブレーキ・ロール曲げ)
曲げ加工は、金属板を塑性変形させて、指定された角度やR(曲率)を持つ形状に成形する技術です。
プレスブレーキ
プレスブレーキと呼ばれる機械に、V字やU字などの形状をした金型(パンチとダイ)を取り付け、金属板を挟み込んでプレスすることで、目的の角度に曲げる方法です。高精度な角度出しが可能で、多品種少量生産から量産まで幅広く対応します。複雑な多段曲げも行えます。
ロール曲げ
複数のロール(ローラー)の間に金属板を通し、連続的に圧力を加えながら徐々に曲げて、円筒形や円錐形、または大きなR形状を作り出す方法です。大物や長尺の板材の曲げに適しており、継ぎ目のない滑らかな曲面を得られます。
穴あけ・打ち抜き加工
穴あけ・打ち抜き加工は、金属板に特定の形状の穴を開けたり、部品の外形を切り出したりする加工です。
穴あけ・打ち抜き加工
タレットパンチプレスなどの機械を使用し、金型(パンチとダイ)を用いて金属板に穴を開けたり、ブランク(製品の外形)を打ち抜いたりします。円形だけでなく、四角形や長穴、異形穴など様々な形状の穴を高速で加工できるのが特徴です。量産性に優れ、コストを抑えたい場合に多く用いられます。
絞り加工・深絞り加工
絞り加工は、平らな金属板を金型で押し込み、カップ状や箱状、皿状などの立体的な形状に成形する加工です。継ぎ目のない一体成形が可能で、水漏れや気密性が求められる製品に適しています。
絞り加工
比較的浅い深さの容器形状を作る加工です。例えば、鍋の底や自動車部品の一部など、様々な製品に用いられます。
深絞り加工
絞り加工の中でも、材料の厚みに対して非常に深い容器形状を作る加工を指します。例えば、飲料缶やガスボンベ、シンクなど、深い立体形状が求められる製品に適用されます。材料の延性(伸びる性質)が非常に重要となり、複数回の絞り工程を経て成形されることもあります。
溶接・接合加工
溶接・接合加工は、複数の板金部品を熱や圧力、またはその両方を用いて一体化させる加工です。これにより、単一の板金では作れない複雑な構造や大型製品を製造できます。
アーク溶接
電極と母材の間にアーク(電気火花)を発生させ、その熱で母材と溶加材(必要に応じて)を溶融・凝固させて接合する方法です。TIG溶接(高精度で美しい仕上がり)、MIG/MAG溶接(高速で幅広い材料に対応)など、様々な種類があります。
スポット溶接
上下の電極で金属板を挟み込み、大電流を短時間流すことで、その抵抗熱により局部的に溶融・接合する方法です。点状に接合されるため「スポット」と呼ばれ、自動車のボディなど、複数の板金を効率的に接合する際に広く利用されます。
レーザー溶接
高密度なレーザー光を照射し、その熱で金属を溶融・接合する方法です。非常に狭い範囲に熱が集中するため、熱ひずみが少なく、高速かつ高精度な溶接が可能です。微細部品や薄板の接合に適しています。
板金加工のメリットとデメリット
板金加工のメリット
コスト効率の良さ
板金加工は、加工方法の選択肢が広く、特にレーザー切断やタレットパンチプレスなど、金型を必要としない加工方法を用いることで、初期投資である金型製作費用を大幅に削減できる点が大きなメリットです。
これにより、試作段階や小ロット生産においてもコストを抑えやすく、製品開発のハードルを下げることが可能です。
また、材料を無駄なく配置するネスティング技術などを活用することで、材料費の削減にも貢献します。
設計自由度の高さ
薄い金属板を素材とする板金加工は、切断、曲げ、穴あけ、絞りといった様々な加工を組み合わせることで、非常に自由度の高い形状を実現できます。
複雑なR形状や多段階の曲げ、箱物や筐体など、立体的な製品の製造に適しています。設計者の意図を反映しやすく、機能性とデザイン性を両立した部品や製品の製造が可能です。これにより、幅広い産業分野で活用されています。
短納期対応の可能性
金型を必要としない加工方法や、汎用性の高い加工機械を用いることで、設計から製造までのリードタイムを短縮できる可能性があります。
特に試作品の製作や、急な仕様変更に対応する際など、短納期での対応が求められる場面で板金加工の柔軟性が活かされます。迅速な製品供給は、市場投入のスピードアップにも繋がり、競争優位性を高める要因となります。
板金加工のデメリット・注意点
材料の制約
板金加工は、主に金属の薄板を対象とするため、加工できる材料の板厚や種類に一定の制約があります。
極端に厚い板や、非常に硬い特殊な材質の加工は、難易度が高くなったり、そもそも対応できない場合があります。
また、材料の特性(展延性など)によっては、意図した形状に加工するのが難しいケースもあります。事前に加工業者と材料特性について十分に相談することが重要です。
精度の限界
切削加工などと比較すると、板金加工では寸法精度や面粗度において限界がある場合があります。特に曲げ加工では、スプリングバックと呼ばれる現象により、設計通りの角度にならないことがあり、調整が必要となる場合があります。
また、溶接加工を伴う場合は、熱による歪みが発生する可能性も考慮しなければなりません。高い精度が求められる部品の場合、加工後の追加工や、より高精度な加工技術の検討が必要になることがあります。
金型コストの考慮事項
大量生産を行う場合、プレス加工などで使用する金型は、生産効率を大幅に向上させますが、その製作には高額な初期費用が発生します。
この金型コストは、製品の総コストに大きな影響を与えるため、生産ロット数と金型費用のバランスを慎重に検討する必要があります。
小ロット生産では金型不要の加工方法を選択し、大量生産では金型を製作するなど、生産規模に応じた最適な加工方法の選択が求められます。
板金加工の工程と流れ
設計・図面作成段階
板金加工の最初の工程は、製品の設計と図面作成です。顧客からの要望や仕様に基づき、CADソフトウェア(例:AutoCAD、SolidWorks、Inventorなど)を用いて、製品の形状、寸法、公差、使用材料などを詳細に設計します。
この段階で、2Dの展開図や3Dモデルが作成され、後の加工工程で必要となる情報が明確にされます。設計段階での綿密な検討は、加工方法の選定やコスト、製品の品質に大きく影響するため、熟練した技術者の知見が不可欠です。
材料選定と調達
設計図面で指定された材料の種類、板厚、サイズを正確に選定し、調達します。一般的に使用される材料には、鉄(SS400、SPCCなど)、ステンレス鋼(SUS304、SUS430など)、アルミニウム合金(A5052、A6061など)、銅などがあります。
製品の用途や求められる特性(強度、耐食性、加工性など)に応じて最適な材料を選び、JIS規格などの品質基準を満たす材料を信頼できるサプライヤーから調達することが重要です。材料の品質は最終製品の性能に直結します。
加工準備(金型準備・機械セットアップ)
加工準備が完了した後、設計図面と加工プログラムに基づき、具体的な加工が実施されます。この工程では、材料の切断(レーザー切断、プラズマ切断、せん断など)、曲げ加工(プレスブレーキ、ロール曲げなど)、穴あけ・打ち抜き加工、絞り加工、溶接・接合加工など、様々な板金加工技術が用いられます。複数の加工を組み合わせる場合は、工程順序が重要となり、加工中は寸法精度や形状が設計通りになっているか、適宜チェックが行われます。
実加工工程
加工準備が完了した後、設計図面と加工プログラムに基づき、具体的な加工が実施されます。この工程では、材料の切断(レーザー切断、プラズマ切断、せん断など)、曲げ加工(プレスブレーキ、ロール曲げなど)、穴あけ・打ち抜き加工、絞り加工、溶接・接合加工など、様々な板金加工技術が用いられます。
複数の加工を組み合わせる場合は、工程順序が重要となり、加工中は寸法精度や形状が設計通りになっているか、適宜チェックが行われます。
後処理・表面処理
主要な加工が完了した部品は、必要に応じて後処理や表面処理が施されます。後処理としては、切断や打ち抜きによって生じたバリの除去(バリ取り)、角部の面取り、加工時に付着した油分や汚れの洗浄などがあります。
表面処理は、製品の機能性や美観を高めるために行われ、塗装、メッキ(亜鉛メッキ、ニッケルメッキなど)、アルマイト処理、研磨、ヘアライン加工などが一般的です。これらの処理により、製品の耐食性向上や意匠性向上が図られます。
品質検査・納品
最終工程として、完成した製品が設計図面通りの寸法、形状、品質基準を満たしているか、厳密な品質検査が行われます。
ノギス、マイクロメーター、三次元測定器などの精密測定機器を用いて、製品の精度が細かくチェックされます。
検査に合格した製品は、輸送中の損傷を防ぐために適切に梱包され、顧客の指定する場所へ納品されます。製品のトレーサビリティ(製造履歴の追跡可能性)を確保することも、品質管理上非常に重要です。
板金加工業者選定のポイント
高品質な板金加工品を安定して入手するためには、信頼できる加工業者を選定することが非常に重要です。ここでは、業者選定の際に確認すべき主要なポイントを解説します。
技術力・設備力の評価基準
板金加工の品質と対応範囲は、業者の技術力と保有する設備に大きく左右されます。以下の点を評価基準として検討しましょう。
技術力
過去の加工実績や事例を確認し、自社の要望する加工内容(複雑な形状、高精度な仕上がり、特殊な材料など)に対応できるかを見極めます。
難易度の高い加工への対応経験や、加工方法に関する提案力も重要な指標です。溶接技能者やCAD/CAMオペレーターなど、専門的な資格を持つ従業員が在籍しているかどうかも、技術力の裏付けとなります。
設備力
保有する加工機械の種類と性能を確認します。例えば、最新鋭のレーザー加工機や高精度なプレスブレーキ、多様な溶接機など、目的に合った設備が揃っているか。対応可能な板厚、材料の種類、加工サイズなども、依頼内容と照らし合わせて確認が必要です。
設備の老朽化度合いも、加工精度に影響を与える可能性があるため注意しましょう。
品質管理体制の確認方法
安定した品質の製品を供給してもらうためには、業者の品質管理体制が確立されているかを確認することが不可欠です。
ISO9001などの品質マネジメントシステム認証を取得している業者は、一定の品質管理基準を満たしていると判断できます。また、製品の検査体制も重要です。三次元測定器や各種検査機器の有無、専任の検査員が配置されているか、不良品発生時の対応フローや再発防止策が明確になっているかなどを確認しましょう。
材料の調達から加工、納品までのトレーサビリティ(履歴管理)が徹底されているかどうかも、品質管理の重要な要素です。
納期対応力とコスト競争力
納期とコストは、板金加工を依頼する上で避けて通れない重要な要素です。両者のバランスを見極めることが肝要です。
納期対応力
標準的な納期はもちろんのこと、急な短納期対応や試作時の迅速な対応が可能かを確認します。生産キャパシティや複数ラインの有無、進捗報告の頻度なども、納期管理の信頼性を示す指標となります。
万が一のトラブル発生時にも、柔軟に対応してくれるかどうかも重要なポイントです。
コスト競争力
見積もりの内訳が明確で、透明性があるかを確認しましょう。安すぎる見積もりには注意が必要ですが、適正な価格で高品質なサービスを提供してくれる業者を選びたいものです。
コスト削減に向けた加工方法の提案や、材料選定のアドバイスなど、付加価値を提供してくれる業者であれば、長期的なパートナーとしてメリットが大きいでしょう。
複数の業者から相見積もりを取り、比較検討することをお勧めします。
まとめ
板金加工は、コスト効率の良さや設計自由度の高さといった多くの利点を持つ一方で、材料の制約や精度の限界といった注意点も存在します。
これらの特性を深く理解し、適切な加工方法や信頼できる業者を選ぶことが、高品質な製品を効率的に実現するための鍵となります。
プロテックジャパンは、長年培った経験とノウハウを活かし、お客様の製品開発をトータルでサポートします。
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