
製品開発や生産戦略において、部材の軽量化や製造コストの削減は重要なテーマとなっています。こうした課題を解決する選択肢として、多くの産業で注目を集めているのがエンジニアリングプラスチック(エンプラ)です。
本記事では、そんなエンジニアリングプラスチックについて、基本的な定義から代表的な種類、採用時の注意点まで、分かりやすくご紹介します。
エンジニアリングプラスチックとは
一般的なプラスチック製品と聞いて思い浮かべるのは、日用品や包装資材などのやわらかな樹脂かもしれません。しかし、工業の世界には、過酷な環境に耐える強さを持った特殊な樹脂、エンジニアリングプラスチックが存在します。
特徴と定義
エンジニアリングプラスチックは、「耐熱性が100℃以上、引張強度が49MPa以上、曲げ弾性率が2.4GPa以上」の性能を満たすプラスチックを指します。これは、一般的なプラスチックの数倍〜十数倍にあたる強さです。熱による変形が起こりにくく、強い力がかかっても壊れにくい性質があるため、機械部品や構造材として幅広く活用されています。こうした特性から、強度が必要な場所でも金属の代替材料として選ばれる事例が増えています。
プラスチック・スーパーエンプラとの違い
工業用のプラスチック材料は、その性能や耐熱温度によって大きく3つのカテゴリーに分類されます。1つ目は、ポリエチレンやポリプロピレンに代表される、耐熱温度が100℃未満の「汎用プラスチック」です。2つ目は、今回解説している「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」、そして3つ目が、さらに高い性能を持つ「スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」です。
これら3つの大きな違いは、「常用耐熱温度」と「機械的強度」の具体的な基準値にあります。汎用プラスチックが100℃未満の環境を前提としているのに対し、エンジニアリングプラスチックは100℃以上かつ引張強度が49MPa以上という工業部品の基準を満たしています。さらに、スーパーエンプラは150℃以上の過酷な高温環境下でも長期間その特性を維持できます。
金属の代わりに採用が増える背景
近年、自動車や電気機器などの産業では、金属部品をプラスチックに置き換える動きが目立っています。この背景には、製品全体の軽量化を達成できる点や、複雑な形状を一体成形して部品の数を減らせるメリットがあります。製造工程をシンプルにしてコストを最適化できるアプローチは、多くの企業にとって大きな魅力です。
ただし、すべての金属部品を単純に樹脂へ置き換えられるわけではありません。強度への要求や生産数によっては、アルミダイキャスト(金属鋳造)のほうがコストや精度で有利なケースもあります。生産ロットや求められるスペックを考慮し、適材適所で素材を使い分けてください。
代表的な種類と主な用途
エンジニアリングプラスチックにはさまざまな種類があり、それぞれ独自の強みを持っています。製品を作るときに適切な素材を選ぶためには、各樹脂の特徴と具体的な使われ方を把握しておくことが大切です。ここでは、特に広く使われている「5大エンプラ」と呼ばれる代表的な5つの種類を紹介します。
PA(ポリアミド・ナイロン)
ポリアミドは、衣服の素材としても馴染みのある「ナイロン」のことです。非常にしなやかで破れにくく、こすれ合っても傷つきにくいタフさを持っています。油や熱にも強いため、自動車のエンジンまわりのカバーや部品に多く使われています。ただし、「水を吸いやすい」という性質があり、水分を吸うと少しサイズが変わったり柔らかくなったりするため、水に濡れる場所での設計には注意が必要です。
POM(ポリアセタール)
ポリアセタールは、頑丈で、形が変わりにくいのが特徴のプラスチックです。金属のようにしなやかな弾力があり、何度も繰り返し力がかかっても壊れないタフさを持っています。さらに、こすれ合ってもすり減りにくく、滑りが良いため、コピー機やプリンターの内部にある歯車や軸受けといった、精密に動き続けるパーツに広く使われています。
PC(ポリカーボネート)
ポリカーボネートは、「ガラスのような透明さ」と「圧倒的な割れにくさ」を合わせ持つプラスチックです。衝撃に対する強さはアクリルの数十倍もあり、ハンマーで叩いても早々には割れません。熱にも強く形が崩れにくいため、自動車のヘッドライトレンズや、壊れてはいけない電気機器の外装(ケース)などに採用されています。ただし、薬品(アルカリ性の洗剤や除光液など)に触れるとひび割れることがあるため注意が必要です。
PBT・PET(熱可塑性ポリエステル)
ペットボトルの仲間であるこれらの樹脂は、「電気を通さない能力(絶縁性)」と「熱への強さ」が優れています。気温や湿度が高くなっても電気が漏れないため、ショートを防ぎたい場所に最適です。プラスチックの中にガラスの繊維を混ぜて、金属並みに硬くして使うことが多く、家電製品の内部にあるスイッチや、自動車の電気配線をつなぐコネクタなどの重要部品に選ばれています。
PPE・変性PPE(ポリフェニレンエーテル)
ポリフェニレンエーテルは、熱に強く電気を通さないだけでなく、「全エンジニアリングプラスチックの中で最も水を吸わない(水に影響されない)」という特徴を持っています。水はもちろん、酸やアルカリにもびくともしないため、キッチンの水回り部品や、雨風にさらされる太陽光発電のパーツ、屋外の電気ボックスなど、過酷な環境で使われる部品に導入されています。
エンジニアリングプラスチックの注意点
多くのメリットを持つエンジニアリングプラスチックですが、万能の素材というわけではありません。製品開発においてトラブルを避けるためには、素材特有の制限や課題についても深く理解しておく必要があります。
金属ほどの高温には耐えない
エンジニアリングプラスチックは、普通のプラスチックに比べれば熱に強いですが、それでも金属の頑丈さには敵いません。一般的なエンプラが耐えられる温度は「100℃〜150℃未満」です。これを超える熱がかかると、柔らかくなって形がゆがんだり、強度が落ちたりします。エンジンの火が直接当たる場所や、超高温の蒸気が通る工場の配管など、本当に熱い場所には、やはり金属や、さらに熱に強いスーパーエンジニアリングプラスチックを選ぶのが一般的です。
材料コストが高くなる
スーパーのレジ袋やペットボトルに使われる普通のプラスチックに比べると、エンジニアリングプラスチックは作るのに高度な技術が必要なため、材料そのものの値段が高めです。そのため、大量生産する製品だからといって、必要以上に高性能なエンジニアリングプラスチックを贅沢に使ってしまうと、製造コストが跳ね上がってしまいます。「この部品には本当にここまでの頑丈さが必要か?」を冷静に見極め、予算に見合った素材を選ぶバランス感覚が求められます。
特定の薬品でひび割れが起きる
プラスチックは、特定の洗剤や油、薬品などがつくと、見た目は変わらなくても、目に見えないレベルで内部に無理な力(歪み)が溜まってしまうことがあります。この状態で衝撃などが加わると、ガラスにヒビが入るように突然パカンと割れてしまうことがあり、これを「ケミカルクラック」と呼びます。
例えば、先ほど紹介したポリカーボネート(PC)は、衝撃には無敵に見えても、特定の薬品にはとても弱いという弱点があります。製品が使われる場所でどんな洗浄剤や潤滑油が使われるかを、事前に確かめておくことが大切です。
設計や金型製作が難しい
エンジニアリングプラスチックは、溶かしたプラスチックを型に流し込んで冷やす際、素材ごとに「どれくらい縮むか」がバラバラです。また、熱の影響も受けやすいため、製品の設計や、プラスチックを流し込む金型を作るのにはプロの高度な技術が求められます。
部品の厚みがバラバラだと冷えるときに反ってしまったり、型が複雑すぎると溶けたプラスチックが隅々まで行き届かなかったりする失敗がよく起こります。
そのため、いきなり本番の型を作るのではなく、まずは1個だけ削り出して形を確かめる「機械加工」を試したり、テスト用の「簡易金型」を使って少量だけ試しに作ってみたりする工夫がおすすめです。
まとめ
エンジニアリングプラスチックは優れた耐熱性と機械的強度を備え、部品の軽量化やコスト削減を支える重要な素材です。しかし、金属材料との性能差やコスト面の制限、設計や金型製作の難易度といった注意点も存在します。製品開発を成功させるためには特性を正しく理解し、プロセスに応じた製法を選択することが大切です。
プロテックジャパンは、100年を超える歴史の中で培った金属や樹脂の高度な金型設計・加工技術を生かし、小ロット試作から将来的な量産まで柔軟にお応えできる製造体制を整えています。「金属から樹脂への代替を検討している」「試作のコストや納期を抑えたい」などお悩みがある際は、ぜひ一度ご相談ください。
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