
本記事では、製品開発や部品選定に不可欠なダイキャスト素材について、その基本原理から具体的な用途までを解説します。
各素材について軽量性、強度、コストなどの観点から比較することで、目的や用途に最適な素材を見つけるための選定方法がわかります。この記事を読めば、適切な素材選びの知識が身につき、製品の性能向上とコスト最適化に繋がるでしょう。
ダイキャスト素材とは?
ダイキャスト製法の基本原理
ダイキャスト製法は、溶融状態の金属を高圧で精密な金型に射出し、急速に冷却・凝固させることで、目的の形状を持つ製品を製造する鋳造技術の一種です。
この製法では、まず金属を溶かし、特定の温度に保ちます。次に、その溶融金属を強力な油圧シリンダーなどを用いて、非常に高い圧力と速度で金型内部の空洞(キャビティ)に充填します。金型内で金属が冷え固まるのを待ってから、金型を開き、成形された製品を取り出します。この一連のプロセスは自動化されており、短時間で高品質な製品を連続して生産することが可能です。
ダイキャスト素材が選ばれる理由とは
ダイキャスト素材と製法が多くの産業で選ばれる理由は、その優れた特性と生産効率にあります。
①高い寸法精度と優れた表面仕上げが得られる
②複雑な形状や薄肉の部品も一体成形可能
③高速かつ大量生産が可能
上記のような特徴があるため、製造コストの削減、部品点数の削減や軽量化などのメリットが享受できます。これが、ダイキャスト素材が選ばれる理由です。
アルミニウム合金ダイキャスト素材の特徴と用途
アルミニウム合金ダイキャスト素材の主な特徴
アルミニウム合金は、ダイキャスト素材の中で最も広く利用されています。アルミニウム合金の最大の特長は、非常に軽量でありながら高い強度と剛性を併せ持つ点です。
また、優れた熱伝導性を持っているため、放熱部品にも適しています。高い寸法精度での成形が可能で、複雑な形状の部品も一体成形できるので、加工コストの削減にも貢献します。さらに、アルミニウムはリサイクル性が非常に高いため、環境負荷の低減にも寄与する持続可能な素材です。
アルミニウム合金ダイキャスト素材のメリット・デメリット
メリット
- 軽量性: 自動車部品、航空機部品、電子機器筐体など、製品の軽量化が求められる分野で特に有利です。
- 高強度・高剛性:優れた機械的特性を持ち、構造部品としての使用に適しています。
- 熱伝導性:熱を効率的に拡散するため、ヒートシンクやLED照明器具などの放熱部品に最適です。
- 優れた寸法安定性:精密な部品を高い精度で大量生産できます。
- 高いリサイクル性:環境に配慮した素材であり、持続可能な製品開発に貢献します。
デメリット
- 溶融温度が高い:亜鉛合金と比較して溶融温度が高く、金型への熱負荷が大きくなる傾向があります。
- 鋳造時の収縮率:冷却時の収縮率が比較的大きく、設計や金型製作時にその考慮が必要です。
- 溶接の難しさ:一般的に溶接が難しく、接合には特殊な技術や方法が求められる場合があります。
主要なアルミニウム合金ダイキャスト素材
日本産業規格(JIS)において、ダイキャスト用アルミニウム合金は「JIS H 5302」に規定されています。その中でも特に広く使用されている合金が以下になります。
- ADC12:最も汎用的に使用されるアルミニウム合金です。優れた流動性と機械的強度、耐食性のバランスが良く、自動車部品、家電製品、産業機械部品など幅広い用途に利用されます。
- ADC10:ADC12と同様に広く使われますが、ADC12よりも優れた機械的強度と耐衝撃性を持つのが特徴です。特に高い強度を要求される部品に適しています。
- ADC6:マグネシウムを主成分とする合金で、優れた耐食性と美しい表面が得られるのが特徴です。海洋環境下で使用される部品や装飾部品に適しています。
- ADC14:ケイ素の含有量が多く、耐摩耗性に優れています。ピストンやポンプ部品など、摺動部や摩耗が懸念される部品に用いられます。
亜鉛合金ダイキャスト素材の特徴と用途
亜鉛合金ダイキャスト素材の主な特徴
亜鉛合金ダイキャスト素材は、比較的低い融点を持つため、他の金属に比べて鋳造が容易であるという大きな特徴があります。優れた流動性により、複雑な形状や薄肉の部品でも高い寸法精度で成形が可能です。
また、表面処理性が非常に高く、めっきや塗装による美しい外観を実現しやすい点も特筆されます。高い耐衝撃性と耐摩耗性を持ち、室温での機械的強度にも優れています。さらに、リサイクル性が高く、環境負荷の低減にも貢献します。
亜鉛合金ダイキャスト素材のメリット・デメリット
メリット
- 低い鋳造温度:金型への負担が少なく、金型寿命が延びるため、生産コストの削減に繋がります。
- 複雑な形状への対応:複雑な形状や精密な部品の大量生産に適しており、後加工の手間を大幅に削減できます。
- 優れた表面仕上げ:美しい表面仕上げが可能なため、外観部品にも広く採用されています。
- 優れた物理特性:優れた振動減衰性、電気伝導性、熱伝導性を持ちます。
デメリット
- 比重の大きさ:アルミニウムやマグネシウム合金に比べて比重が大きく、部品が重くなる傾向があるため、軽量化が求められる用途には不向きです。
- 高温環境での強度低下:高温環境下では機械的強度が低下しやすく、長期的な荷重によるクリープ変形に注意が必要です。
- 腐食の可能性:特定の腐食環境下では、表面処理が施されていない場合に腐食が進行する可能性があります。
主要な亜鉛合金ダイキャスト素材
亜鉛合金ダイキャスト素材は、JIS規格において主に以下の2種類が一般的です。
- ZDC1(JIS H 5301): 最も広く普及している亜鉛合金で、優れた機械的特性と加工性をバランス良く兼ね備えています。国際的にはZamak 3(ザマック3)に相当し、多様な用途に適用されます。
- ZDC2(JIS H 5301): ZDC1に比べて銅の含有量が多く、より高い強度と硬度を持ちます。国際的にはZamak 5(ザマック5)に相当し、耐摩耗性が求められる用途や、より高い強度が必要な部品に適しています。
マグネシウム合金ダイキャスト素材の特徴と用途
マグネシウム合金ダイキャスト素材の主な特徴
マグネシウム合金は、その比重がアルミニウムの約2/3、鉄の約1/4と非常に軽いことが最大の特徴です。この軽量性により、製品全体の重量を大幅に削減できます。
また、軽さに反して高い比強度と剛性を持ち、構造材としても優れた性能を発揮します。熱伝導率が高いため、電子機器の放熱部品としても有効であり、電磁波を遮蔽するシールド効果も持ち合わせています。さらに、優れた寸法安定性により、精密な部品製造に適しており、リサイクル性にも優れています。
マグネシウム合金ダイキャスト素材のメリット・デメリット
メリット
- 軽量化による性能向上:自動車部品では燃費改善、電子機器では携帯性向上に貢献します。
- 優れた放熱性:電子部品から発生する熱を効率的に外部へ放出し、機器の安定稼働を助けます。
- 高い電磁波シールド性:外部からの電磁波干渉を防ぎ、内部からの電磁波漏洩を抑制します。
- 高い比強度・剛性:軽さと強度を両立し、構造部材として高い信頼性を提供します。
- 振動吸収性:優れた振動吸収性により、機器の静音化や耐久性向上に寄与します。
デメリット
- 耐食性:塩水など特定の環境下では腐食しやすい性質があるため、多くの場合、表面処理が必要です。
- 加工性:切削加工時に発火のリスクがあるため、専門的な設備と技術が求められます。
- コスト:アルミニウムや亜鉛合金と比較して、原料費や加工費が高くなる傾向があります。
- 融点:比較的融点が低いため、高温環境下での使用には制約がある場合があります。
主要なマグネシウム合金ダイキャスト素材
ダイキャスト用マグネシウム合金には、用途に応じて様々な種類があります。
- AZ91D:最も広く使用されているダイキャスト用マグネシウム合金です。優れた鋳造性と機械的特性(強度、延性)を持ち、他のマグネシウム合金と比較して耐食性も良好です。自動車部品(ステアリングホイールの芯金、シートフレームなど)や電子機器の筐体(ノートパソコン、携帯電話など)に多用されます。
- AM60B:AZ91Dよりも高い延性を持ち、衝撃吸収性が求められる部品に適しています。衝突安全部品など、塑性変形を許容する用途で採用されます。
- AS41B:高温環境下でのクリープ特性(高温での変形抵抗)に優れています。エンジン周辺部品やトランスミッションケースなど、熱が加わる部位での使用に適しています。
ダイキャスト素材の比較と選定方法
ダイキャスト製品の設計・開発において、どの素材を選ぶかは製品の性能、コスト、生産性、そして市場競争力に大きく影響します。アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金はそれぞれ異なる特性を持つため、用途や要求される性能に応じて最適な素材を選定することが重要です。
軽量化が最優先の場合
自動車部品、航空機部品、携帯機器など、製品の軽量化が絶対条件である場合は、マグネシウム合金が第一の選択肢となります。その軽さは、燃費効率の向上や持ち運びやすさに直結します。次いで、アルミニウム合金も軽量性と強度を両立できるため、多くの軽量化ニーズに対応可能です。
高強度・高剛性が求められる場合
構造部品や高負荷がかかる部品など、高い強度や剛性が必要な場合は、アルミニウム合金が最も汎用的に使用されます。特に、熱処理によって強度を高めることができる合金種もあります。亜鉛合金も、高い引張強度と衝撃吸収性を持つため、特定の強度要件や耐衝撃性が求められる部品に適しています。
精密部品や複雑形状の場合
高い寸法精度や複雑な形状、薄肉部品の成形が求められる場合は、亜鉛合金が優れた流動性と低い収縮率を持つため、最も適しています。金型への転写性が高く、精密なディテールを再現できます。アルミニウム合金も精密鋳造が可能ですが、亜鉛合金ほどの流動性はありません。
コストを重視する場合
大量生産品やコスト競争力が重要な製品では、トータルコストを考慮した選定が不可欠です。亜鉛合金は、素材単価は高いものの、低い鋳造温度によるエネルギーコスト削減、金型寿命の長さ、高い生産性により、特に大量生産においてコストパフォーマンスに優れる場合があります。アルミニウム合金も、素材の汎用性と生産性のバランスが良く、幅広いコスト帯に対応できます。
最終的な素材選定にあたっては、上記のような特性比較に加え、生産ロット、二次加工の有無、表面処理の要件、そして製品が使用される環境条件などを総合的に評価し、サプライヤーや専門家と相談しながら決定することが成功への鍵となります。
まとめ
本記事では、ダイキャスト素材の基本と、主要なアルミニウム、亜鉛、マグネシウム合金それぞれの特徴、用途を解説しました。
プロテックジャパンは、お客様のニーズに最適なダイキャスト素材と製法を提案し、設計から試作、制作までを一貫してサポートしています。
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